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五年間(2016.01.11)

市場通りにさしかかると 沢山の母親たちが溜息をついていた
今しがた報せが届いたのだ
僕たちには五年間しか残されていないと 嘆いて過ごすしかないと
 もう地球はおしまいなんだ− 報告者は啜り泣きしながらそう言った
 ひどく泣きはらした彼の顔は涙でびしょ濡れで
 おのずと知れた 嘘ではないのだと

僕は電話や オペラや 好きなメロディに耳を傾け
少年たち おもちゃ 電気アイロンやテレビに目をやった
 身の回りにある全てを覚えておこうと
 僕はギチギチの倉庫みたいに痛む頭に さらに詰めこむ
  肥ったひとも 痩せたひともみんな
  背の高いひとも 背の低いひともみんな
  ひとかどの人たちも 掃いて捨てるような人たちもみんなだ
こんなに沢山の人たちが自分に必要だなんて 考えたことがなかった

僕と同い年くらいの女の子が 小さな子供を殴っていた
あの黒人が停めてやらなきゃ そのまま殴り殺してたかも知れない
 腕を壊した兵隊が キャデラックのホイールをただ眺めてた
 警官はひざまづき司祭の足に接吻していた
 ゲイがそれを見て吐いていた

君のことはアイスクリーム・パーラーで見たんじゃないかな
冷たくて長いミルクシェイクを飲んでいた
微笑んで 手を振っていた とても素敵だった
こうして僕に歌われてるなんて知らないだろうね
 寒くて 雨も降っていて なんだか芝居の登場人物みたいな気分だよ
 僕は母さんのことを考えた むしょうに家に帰りたくなった

君の顔 君の血筋 君のしゃべりかた
君にキスしよう 君は美しい 君には歩いていてほしい

あと五年間しかない 目に焼きついて離れない
あと五年間しかない なんてことだ
あと五年間しかない 僕の頭はボロボロだよ
あと五年間 それしかないなんて
五年間 五年間 五年…

(僕の頭もボロボロで、上手い追悼文など記せそうもないので、十代の頃に歌詞を憶えた一曲を意訳してみました。彼を失なって悲嘆にくれているファンの人たちに、そうでない人は少しでも優しくしてあげてください。彼は亡くなっても、あなたの周囲で嘆いているファンはまだ生きていて、人の思いやりを必要としているのですから)
(c)舞村そうじ/RIMLAND ←1602  1511→  記事一覧(+検索)  ホーム