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ハのあるハナシ(2022.03.01)


 死んだ元都知事が排外主義と人権への悪意・それにオリンピックへの妄執を抱えてロシアの大統領に転生(憑依)したような一連の無残なできごと〜ドーピングからウクライナ侵略までについては、ここでは多くは語らない。戦争反対。侵略反対。そして、火事場泥棒のように日本国内で憲法9条や平和主義を揶揄・攻撃してる面々が、判で押したようにレイシストだったりセクシストだったり自己責任論者だったり公文書やリコール署名を捏造したり新型コロナ禍においても中抜きと誤った判断で、すでに社会をボロボロにしている搾取者とほぼほぼイコールであると・彼らの虚言に乗せられたら最後ウラジーミル同じ未来・破滅へのオウンゴールを最後まで駆けて、駆け抜けることになる、と言うに留める。
 「ウラジーミル、君と僕は同じ未来を見ている」「ゴールまで、ウラジーミル、2人の力で駆けて、駆け、駆け抜けよう」(2019年)て、口先だけの甘言で釣ってやったとかじゃなくて北方二島と三千億円を差し出しながら言ったお追従ですからね…
 むろんコロナ禍も続いている。半分は人災だと思う。でもまだ生きてます。

   *   *   *

 昔は、いろんな街でボウリング場の存在を示す巨大なピンをてっぺんに立てた建物を見た気がする。それを上回る高さの建築物が増えたのと、どうやらボウリング自体の衰退によって最近あまり目にしない。
 そのかわり、同じような色合いの別のオブジェが、街のあちこちに存在することに気がついた。
 
高さ40〜50cmくらいの白い奥歯。歯科医のディスプレイである。
 あれは何なのか。歯医者ともなると、ものすごく奥歯が好きになるのか。規格品なのか(まさか一体一体がオーダーメイドでもあるまい)。歯科の業界誌や学会誌に専門業者の広告があるのか。「光るタイプなら夜もアピール抜群」か。人類が滅びた近未来、調査で地球に降り立った異星の知的生命は、あちこちにある身体の一部分のオブジェを「ははあ地球人はこの部分が疾患になりやすく治療所のサインをかように掲げていたのか」と正しく判定できるだろうか。「地球人は身体のこの部分に自分の魂か、あるいは神様・オルターエゴが宿ると信じて崇拝していたのでは」と誤解が生じないか。『シャイニング』のダニー坊やのイマジナリー・フレンドは歯に棲み着いてるのではなかったか。
 ひょっとしてボウリング場の巨大ピンが街から消えていく代わりに歯科医の奥歯オブジェに転生しているのか、ならば両者の縮尺は照応しているのかと計算してみたが(なんでそんなフーコーが『言葉と物』で描いた中世ヨーロッパの一時代的な発想になるのか)実際の奥歯が歯根まで含めて1.5cm→オブジェが高さ40cmとしても、同じ縮尺でボウリング場の天辺のピンは高さ10メートルは必要で、いやまさかそんなに大きくはないだろう。この話はナシだ(そんなこと言ったら異星人の話だってナシだ)。
 
 とはいえ、存在に気づいてコレクションしはじめると、立体はさすがに件数もかぎられバリエーションも少ない。東京の日本橋で見かけた物件は他のシュッとしたオブジェと比べ、なんというか肉感的で、ルノワールの絵画に描かれた女性や俵万智さんの短歌に出てきたうっふんうっふんな白菜を彷彿とさせたが…
 白菜が赤帯しめて店先にうっふんうっふん肩を並べる(俵万智『サラダ記念日』) 
 むしろ数もバリエーションも豊富なのは奥歯のシルエットを描いた二次元のディスプレイだ。
 上部の切れ込み一本で立体感を表現するもの。リアリズム路線。オブジェとしての2.5次元化。逆にユルキャラ路線に振り切ったもの。
 
 ハードなもの。シャープなもの。仲良しさん(かわいい)。
 
 「歯というのは人と人が支え合う形で…」「いやいや、歯科医はハートだよ」
 
 前歯もいる珍しいケース。お子様の歯もウエルカムなもの。歯科か獣医科か一瞬とまどうもの。
 

   *   *   *

 
 一年くらい奥歯を見かけては写真に収めていたら、なんか上のほうで勘違いされたらしい。
「ふむふむ、この男はよほど歯医者が好きらしい。ひとつ通わせてやるか」
 昨年の秋頃から、左の奥歯(奥歯!)上下がしくしく痛みだした。気がする。水が沁みる。一週間ほど躊躇ったあと、諦めて近所の歯科医にネット予約を入れた。いいかげんな歯周ケアしかしてこなかった自覚はあるが、不思議と虫歯にはならず、十数年ぶりの通院。

 あくまで個人のケースになるが、これが全く快適だった。予約がネットで出来たのもある。ひと昔、ふた昔まえなら初日はまず全体を見て実際の治療は次回から…なんてイメージがあったが(いやそれだとリアルタイムで歯が痛い人はたまらないので、そういう「イメージ」だろうか)初日の初診から麻酔でドリル。
 いや、その麻酔も二段階。まず脱脂綿に含ませた液体の麻酔薬を歯茎にあてて「麻酔の麻酔」をしたうえで、突き刺す注射器から、なんと電子音でエリック・サティが流れる。Je te veux。少女漫画でヒロインの意中の楽器男子なんかがさらっと弾いてみせて、後から意味を知って「え?え?それって愛の告白…!?」と真っ赤になる、「あなたがほしい」という意味のシャンソンだ。別の日は「ビューティフル・ドリーマー」だった。
 ←音が出ます
 だいたい可笑しいのが待合室がアメリカの海岸ふう?で、看板を模した木の板にペンキで書かれた文言がKeep calm and pretend you're in the beach(リラックスして、自分はビーチにいると考えましょう)。不安要素といえば、お子さま用にラックに入った絵本の一冊が『かたづけしないとどうなるの?』うう、歯じゃなくて胃が痛い…と冗談に思うくらい、歯科医の不快感をとりのぞくのに熱意を傾けている。
 ここの経営方針・歯科医哲学もあるのだろうけど、過当競争もあるのかなあと思うのは意地が悪いだろうか。十数年おざなりに磨いてきた歯だから、恥ずかしながら前歯の裏には歯石がついてるのだが年齢もあるし仕方ないですよねへ?
 んー、この感覚に憶えがある。一昨年えいやっと足を運んだ人間ドックで、恥ずかしながらコレステロールだの色々アウトだったのだが食事のカウンセリング担当さんが毎日自炊してるの大変よいですし、ごはんを少なめにしてるのも良いです!…歯科医にしても何にしても、麻酔が痛いドリルが怖いなんてことより「日頃の不摂生を叱られるのがイヤ」で治療通院を忌避しがちな(こうして書くと、ほんと大きな子どもですねえ)身には、褒めて伸ばすというか、たいへん生きやすい世の中に、少なくとも一部は変わりつつあるのではないか。
 と同時に、中高年男性という自分のステータスが「おだてて褒めて御機嫌を取ってやらないとキレてクレームをつける一番厄介な連中」と思われてるのかも知れないと自省したほうが良いのかも、と思いましたが…

 昨年のうちに治療は済んで、これも驚いたのだけど「では次は三月に。予約日を決めましょう」あ…三月「ごろ」じゃないんだ…
 また来ますよと言ってすっぽかしてフェードアウトとか出来ないんだなあ(こらっ)と妙に感心。これを機に少し健康になってやるかと安めの電動歯ブラシなど買ったのですが、再通院の最近に限って、忙しくてあまり作動させられず。…あまり叱られないといいなあ…
 

(c)舞村そうじ/RIMLAND ←2204  2202→  記事一覧(+検索)  ホーム