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「震災後」の新章〜2019年春の東北(2019.04.05)

  3.11その日に東北に滞在するのは、震災以来、初めてのことだった。
 別に気負いがあったわけではない。逆に、この日は避けようという遠慮も、もういいのではないかと吹っ切れるものがあったのかも知れない。18きっぷを三日ぶん使っての鈍行列車の旅。
 二泊の宿は仙台にとり、初日は仙台まで・翌日、気仙沼を訪ね・三日目また仙台から横浜に戻る。無理はしないこと前提の、ゆるめの日程だ。
 まずJR東北本線で仙台のひとつ手前(東京寄り)・長町の駅で下車する。少し遅めの、昼食の時刻。ここでの目的は、仙台駅構内にも出店しているチーズ菓子専門店「ME&CHEESE」の劇的においしいチーズタルト、そして料亭「浜や」だった。

グラタン皿のようにシッカリと硬いタルト生地に、グラタンのように柔らかいクリームチーズ。美味しいけど硬い生地をフォークで刻むとチーズのほうが脆く崩れて、食べにくいなあと思っていたら、隣に座ったワイルドな地元おじさん客がグラタンを食べるように、まず中のチーズクリームだけ食べ始め「そ、そうかー」と学んだのはいいとして
 「浜や」季節限定の芹牡蠣丼、牡蠣でかっ!!
 震災のあとでは初めて、2012年の年明けに東北を訪れたとき(アクアマリンふくしまを経由して)宿をとった長町で初めて入ったのが、この「浜や」だった。元は隣接する名取市・閖上(ゆりあげ)に店があったものが、本店は被災・仙台で再起を期して営業しているようだった。
 それがきっかけで名取市・閖上という土地のあることを知り、一度だけボランティアにも出向いた。名取市のほうにプレハブの復興商店街があり、そちらにも店舗があって何度か食事をした。
 …そのプレハブの仮設店舗に店じまいを挨拶する貼り紙が貼られていたのが昨年秋のことで、果たして今回再訪した長町の店舗には、閖上での新店舗開店の案内が貼られていたのだった。
かわまちテラス閖上4/25グランドオープン(名取市観光物産協会)

 黒を基調に、浅い角度の斜め屋根が特徴的な、瀟洒な平屋の店舗が並ぶ。首都圏の郊外の、アウトレットモールと言われても違和感がない。
 こういうタイプの商店街が震災後の東北で新しく設けられたのを見たのは、一昨年の女川が初めてだった(個人の体験です)。石巻からの鉄路が再開された翌年のことで、それまで石巻や気仙沼・陸前高田などで見てきたプレハブの仮設商店街とは一線を画する、完成された景観に驚かされた。実際に女川では若い世代に口出しせず、任せるという形で新しい商店街づくりが進められたと読んだ憶えがある。


 それが中央の政府や電力会社の不作為や切り捨てを正当化するとは欠片ほども思わないけど、時間は経過し、生活は積み重なって、進むところでは確かに前に進んでいる
 …実は昨年の夏も似たようなこと(消えゆく仮設店舗・生まれ来る新興商店街)書いてたわけですが、この三月の旅行では閖上の「浜や」、そして気仙沼の「エスポワール」が仮設店舗からの離陸を果たしたことで、自分の中で「震災後」が一つの里程標を通過した・次のフェーズに入ったことを実感した。

 …そう。移転してたんですわ、エスポワールが(なんで事前に調べておかないの)。
 津波で甚大な被害を受けた気仙沼市だが、細い川を一本隔てた内陸部では大規模な損壊もなく街の機能もすみやかに復旧したものと思われる。海側に設けられた、いくつかの仮設店舗群から離れ、この内陸部にあったのがプレハブの復幸小町・そこで仮営業していたのが喫茶エスポワールだった。

 首都圏に暮らしながら、お洒落なカフェめしも、そもそも喫茶店での食事というものにも縁を結んでこなかった自分が、自宅から500km離れた気仙沼に初めて「食事ができる贔屓の喫茶店」が出来たのも間抜けな話だけれど、12コ貯めるとコーヒーが一杯飲めるスタンプ券をもらい、これが埋まるか、この店が仮設のプレハブを卒業するまでは東北に通えるだろうか、(無尽蔵にお金が出てくる魔法の財布があるでなし…)などと思っていたのが

 BRT南気仙沼駅に降り立つと、復幸小町が更地になっている(なんで事前に調べておかないの)。
 あわててWi-Fiが無料でつながるコンビニ前まで足を運び(魔法の財布があるでなし)検索したら、新設なった気仙沼市の図書館の中の店舗として新たなスタートをきったらしい(なんで事前に調べておかないの)。
 実は3月11日の宮城県は、沿岸部では警報が出るほどの激しい風雨であった。そして当日は月曜日。図書館の閉館に合わせて、新生エスポワールも店を閉じていることが分かった(なんで事前に調べておかないの)。それでも伊達に何度も通ってはいない、南気仙沼にはインド・ネパール料理店があるのだったと向かうと月曜定休。激しい雨と風。折り畳み傘の骨が一本、折れる。天気がよければ沿岸部にも、俳優の渡辺謙さんが開いたカフェにも、などと考えていたが、無理無理。
 交差点の先に気仙沼ホルモンという地場料理を食べさせる焼肉屋があった。ここも開いてない。ここまで来て吉野家はイヤだ。まして回転寿司、これ以上つめたい思いをしたくない。せめて同じ内陸部に震災後は移転してきた書店(これは仮設でない店舗)で何かお金を落としていこうと無理押しで歩いていったら(大事なことなので再確認しておきますが、折り畳み傘の骨が一本、折れてます)そこも移転

 うん、気仙沼の震災後も、新たなフェーズに入ったな!などと言ってる場合ではない。寒い。つらい。
 BRT駅(南気仙沼のは実質バスの停留所みたいなものです)の前にあった、前から気になってた廉価なお弁当屋で税込216円の海苔弁当を贖い、開いてるレストランや定食屋・駅蕎麦のひとつだにない気仙沼駅に、そして仙台に逃げ帰ったのでした。ひどい結末だ!

 そのぶん今回は仙台でゆっくりでき、素敵な古本屋に出会ったり、新たな地元名物の座を虎視眈々とうかがう「マーボー焼きそば」に舌鼓を打ったりしたのだけど、それはまた別の話。

 翌日、東京に戻って夕ごはんを食べた後、同じ東京・品川の入国管理局でクルド人の収容者が身体の変調を訴え、外に住む家族が救急に連絡・何が起きるか分からなので来られる支援者は来てほしいという呼びかけがあり、現場に駆けつけたら、入り口前に救急車が停まっているのに入管の扉は固く閉ざされ、隊員も追い返される、胃の腑が凍るような事態に立ち会ってしまったのだけど、これもまた、別の話

仙台の新刊書店で購入した、素敵な本たち。郡山にもいけてる書店があって、それは次の日記あたりで。
(c)舞村そうじ/RIMLAND 1903→  記事一覧(+検索)  ホーム