記事:2009年9月(普請中) ←1001  0502→  記事一覧(+検索)  ホーム 

ホーセズ、ホーセズ!〜『パティ・スミス・ドリーム・オブ・ライフ』(09.09.01)

 「ジャクソン・ポロックが若い頃ね、ピカソの画集を見て叫んだんだって。ちくしょー、絵画で出来ること全部もってかれちまった!」
自らもキャンバスに絵の具を滴らせながら彼女は言う。
「でも彼はピカソがやってないことを見つけた。『ゲルニカ』の馬の口から垂れてるドリップ。ピカソはドリップを嫌う人で私が知るかぎり『ゲルニカ』のそれが唯一のドリップ。そしてそれを見つけたポロックはキャンバスに絵の具を垂らしたというわけ」
(記憶に基づいて書いてるので細部不正確です。以下も同様)。

 毎月ついたち映画の日。すいません、先月(8月)はサボりました。だって夏休み!しかも土曜!窓口前を埋め尽くす、御家族づれの皆様の長蛇の列を想像しただけで敗退…
 そして今月9月。南極越冬隊の映画も興味あったし、ネットで見た「えっ!?『HACHI』って『NANA』の続篇じゃないの!?」というジョークも愉快だったけど、すまん、またミュージシャンものに逃げました。
 『パティ・スミス〜ドリーム・オブ・ライフ』。70年代ニューヨーク・パンクの女王。現在もアクティブに活動中で、還暦でつくった最新のアルバム(twelveのことです)がすごく好かったことから、渋谷の小さな映画館に足を運びました。
 映画は音楽中心ではなく、ミュージシャンであり詩人であり画家であり母でも・夫や家族や友人を次々に亡くした残され者でもある一人の女の10年を、常によりそうカメラで捉えたもの(こう書いて思う…この映画ぜったい鈴木祥子さんは観るよな!…話が逸れました)。散漫といえば散漫で、とちゅう眠ってしまう箇所もあったのだけれど、

 ギターが鳴り、声が吠えればピキーンと目が覚める。ハイライトは、ステージ上での政治的なアナウンス、というかアジテーション。
 国家は人々の幸福のためにある。国家がその目的を果たさず、それを妨げさえするときは、人々は国家を選び直すことができる…。
 なんだろう、これは何かの国際的な憲章か何かだろうかと思わせる理路整然とした宣言はそのまま、人々の幸福を妨げた者富裕層を税的に優遇し貧乏人を苦しめ、国際的な環境保護協定を拒否し、アラスカを石油企業に売り渡し、無益な戦争を行ない、捕虜に対して陪審のつかない不当な裁判を行ない、国外の土地に秘密刑務所を設置し、違法な監視と盗聴を自らに許したジョージ・W・ブッシュ・ジュニアへの告発になだれこむ。記憶があいまいなのが歯がゆいほどの、英語はたしかに議論をするよう鍛え上げられた言語だと再確認させられる、容赦ない告発。そしてそれを、ブッシュ政権下のアメリカでやっていたのかと思うと、いろいろ申し訳ない気持ちにさえなってくる。
 なんでもパティ・スミスは、例のアメリカの前の大統領と同い年であるらしい。ブラックユーモアや皮肉で例える話題じゃないかも知れないけど、高校の同じクラスの、鼻持ちならないイジメっ子のガキが親の七光で学級委員長になって、少ないボキャブラリーで威張り散らしているのを
 教室の隅のほうで油絵かいてた、いつもビートニクのすりきれた本よんでるボサボサ髪の目ヂカラ尋常じゃない女の子が「もう我慢ならん」とばかりに立ち上がり「これで、こうで、こうで、こうで、こうで(ホーセズ、ホーセズ、ホーセズ、ホーセズ!)だからあんたはダメなのよーっ!!」けちょんけちょんに叱り倒す−そんなさまを想像してしまった。

 あまり時間が許されておらず、政治的な紹介だけになってしまいましたが、冒頭に引用したジャクソン・ポロックの「ほんまかいな?」という逸話や、ルームメイトでもあったロバート・メイプルソープの思い出、コニーアイランド遊園地、猫とのたわむれ。
「ジャクリーン・ケネディが死を宣告された時、もう一度さいごの思い出にと、このセントラル・パークを散歩したというわ」
還暦ロッカーにして成長した二児の母でもある女性の「ライフ」が全面的に捉えられています。芸術のある生活に興味のある人には、機会があったら観てほしいかも。観てる間ちょっと、世間知らずで熱気だけある大学生に戻ったような気がしたよ。
 ルー・リードのドキュメンタリーに出ていた当時50歳くらいのパティ・スミスの笑顔のキュートさについても語りたいけど時間切れ。今回はまったく私情ばっかりの日記ですみません。こんな内容で放り投げて、今月は更新ひかえめの予定です(新潟遠征の準備のため)。

 と言いつつ、さらに私情な追記。件の『パティ・スミス〜』の日本公開にあたって各界からコメントが寄せられているのですが、17人くらいのコメント者に元ブランキー・ジェット・シティの「浅井健一・照井利幸・中村達也」の3人が3人とも名前を連ねていて、あんたらどんだけ馬が合うんだ(もう再結成しちゃえよ!)と思ったりしました。無理なんかなあ。
 
(c)舞村そうじ/RIMLAND ←1001  0502→  記事一覧(+検索)  ホーム